「行くな」

視線が最初に落ちたのは、祈のスカートに滲んだワインの染みだった。

それからゆっくりと顔を上げ、祈と目が合う。梢は相手が誰かを認めた瞬間、口元の弧を消すどころか、わずかに深めた。

「浅野さん」

名前を呼ぶ声は静かで、どこか確かめるような余裕を帯びていた。それから警備員のほうへ向き直る。

「大丈夫です、私の知り合いなので。ただ——」

一拍置いて、視線を祈に戻した。

「この方、招待状はお持ちでないですよね。正式なビジネスの場ですから、どなたでもご入場いただけるわけではないんです」

周囲の招待客が目を向けてくる。パールのイヤリングをつけた中年女性が口元を覆って何かを囁き、隣の男が低く笑っ...

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