「距離と体温」

診察室の空気が、静止した。

祈の言葉が落ちた瞬間、自分の心臓の音が妙にはっきり聞こえた。

朔はこちらを見ていた。その目に動揺はなく、見破られた気まずさもなかった。

それから、笑った。ごく浅く、弧を描くとも言えないほどの笑みだった。

「社長?」

二文字を繰り返す声に、どこか面白がるような響きが混じっていた。

「考えすぎだ」

祈は答えなかった。ただ、じっと彼を見ていた。

根拠のない推測ではなかった。入社初日から、疑問はずっとそこにあった。黒い手袋、神宮という苗字、社内の人間が彼に向ける過剰なほどの恭しさ、四十七階へ直通するエレベーター。そして今日、病院に来て、院長が自ら出迎えたとい...

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