第十六章 温もりの中に、彼女はいない

彼女は二秒ほど考えて——

周防の車の助手席のドアを開けた。

ドアの閉まる音が、夜の静けさの中で妙に際立った。

紗奈は助手席に座り、シートベルトを締めた。一度も後ろに停まっている黒い車を振り返らなかった。

周防がエンジンをかけ、車は静かに走り出す。

バックミラーに映るあの車は、まだそこに停まったまま。ライトがついたまま、動かない。

「よければマンションまでお送りしますが」周防が顔を傾け、落ち着いた口調で言った。「それとも他に行きたい場所が?」

紗奈は前方の道路を見つめたまま、二秒ほど沈黙してから答えた。「マンションで結構です。ありがとうございます」

車内が静まり返った。

周防は...

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