第二十八章 彼女を守る

「止まって。」

紗奈の足が敷居のところで止まった。

振り返らず、ただわずかに顔を横に向け、余光で問いかける。

一条様が口を開いた。手術後の渇きで声がかすれていた。「ドアを閉めろ。」

紗奈はゆっくりと振り返った。

目が先に落ちたのは一条様の襟元だった。あの口紅の跡がまだそこにある。正紅色が薄い病院着の布地に滲み、色が少しにじんで、深く目に刺さった。

視線を戻した。

一条様は右手を上げ、左肩の厚い包帯を指した。語気に有無を言わせぬ圧があった。「この怪我はお前を守ってできたものだ。それはお前が誰より分かっているはずだ。」

「欠してる」とは言わなかった。そう言えば彼女がすぐ出て行くと、...

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