第三十二章 データと薔薇

桐谷助はタブレットをベッドサイドテーブルに置き、一礼して、足音を殺しながら病室を退出した。

一条様はタブレットを手に取った。

廊下の監視カメラの画質はさほど良くなく、タイムスタンプは深夜を示していた。進行バーをゆっくりと手前に引く。カメラの角度は低く、階段の踊り場付近の一部しか映し出せていない。

のあの姿が手すりのそばに現れ、宙に浮いた赤い風船に向かってつま先立ちで手を伸ばしていた。重心が明らかに不安定だった。

のあの身体がバランスを崩しはじめる一瞬前——画面右下、踊り場の陰に——

鮮やかな淡黄色が、閃いた。

その色はほんのわずかな間だけ映り、二秒と経たずにカメラの範囲外へ消えた。...

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