第四十四章 授賞台の視線

紗奈は、自分がいつエレベーターの前に立ったのか、覚えていなかった。

覚えているのは、ドアの隙間から見えたあの光景だけだ。垂れ落ちた黒髪。重なり合う二つの影。そして、細部を確かめるまでもなく、すでに理解してしまった、あの姿勢。

踵を返したとき、足音はしなかった。

廊下は長かった。一歩一歩、靴底が床を擦る、かすかな音。その音は聞こえていたが、自分が歩いているという感覚はなかった。

エレベーターのドアが開いた。

乗り込む。ドアが閉まる瞬間、鏡面に自分の顔が映った——白衣には今日の実験室の汚れが残り、手の甲の傷には白いガーゼが巻かれ、その端から滲んだ暗い赤が滲んでいた。

鏡の中の自分を見つ...

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