第四十五章 ノートの重さ

宴会場の喧騒は、ガラス越しのように遠い。

紗奈はその場に立ったまま、手に抱えた箱を見つめて、長い間動けなかった。

ベルベットは深い青。指先で蓋を開けると、表紙の黄ばんだノート、右下の手描きスタンプが見えた——小さな、歪んだウイルス粒子の図案。

このスタンプ、紗奈は知っている。

母の手が、一筆一筆刻んだもの。

指先が印章の縁に触れた瞬間、喉が詰まった。

彼女は最初のページを開いた。

視線が行を追って滑っていく。

X-24前身ウイルスの変異経路推論、初期仮説、部分配列注釈。

手が微かに震えた。

このデータの動き——彼女が実験室で何度も議論し、何度も壁にぶつかり、何度も死角から出...

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