第四十七章 恩返しの仮面

電話が繋がった瞬間、受話口から挨拶の一言もなかった。

「紗奈さん、」清子様の声が流れてきた。一条家の年長者に特有の、圧迫的な静けさを帯びた声音だった。「なぜ病室を離れているの。莲の傍にいなくて、どういうつもりなの。」

紗奈は病院の正面玄関の自動ドアの脇に立ったまま、動かなかった。

ガラスドアの向こうでは、人の波が行き交っている。すべてが音もなく流れ、まるで別の世界の出来事のようだった。

「傷がずっと痛いって、知ってるの?」

「知っています。」

「知っていて、それでも出ていったの?」

紗奈はすぐには答えなかった。

この口調は、あまりにも聞き慣れていた。七年。何かをするたびに、何か...

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