第四十八章 針刺の後──特例申請の代償

清子は黙ったまま、バッグを脇に挟んで立ち上がった。

何も言わなかった。三十年の女主人として、引き際は心得ている。

だが、引くことは負けではない。

バッグを握る指の関節が白くなった。

あの女は、最初から一条家に嫁ぐ気など、なかったのだ。


数日後。

国立感染症研究所、陰圧実験室。

防護フェイスマスクの内側に薄く水蒸気が曇っていた。紗奈は身を屈め、マイクロピペットで十七回目の最適化を経たワクチン検体を吸い上げる。培養皿がバイオセーフティキャビネットの白い光の下に静かに並んでいる。操作の一挙一動は、機械のように精確だった。

データ画面の抑制率カーブがゆっくりと上昇し、九十...

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