第五十章 病室の温度

千代ばあ様の声は掠れていた。挨拶もなかった。

「紗奈、莲が入院したこと……知ってるわね」

「はい」

紗奈は書棚にもたれて床に座ったまま、雑巾をまだ握っていた。台灯の光が彼女の影を長く伸ばしていた。

「最近、体が思わしくなくてね」千代ばあ様の口調は穏やかで、とっくに受け入れた事実を述べるようだった。「病院まで歩けなくなってしまったの」

少し間があった。

「あの子に付き添ってもらえないかしら。あの子のためじゃない。私のため、安心させてほしいの」

紗奈はすぐには口を開かなかった。

鎌倉の別邸で、廊下の壁に手をついて歩く千代ばあ様の姿を思い浮かべた。一条家でこういう言い方をされたのは初...

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