第六章 囮(おとり)

「財産も、戸籍も、この子たちも……何もいりません。一条家とは、二度と関わりたくない。」

電話の向こうが、また静まり返った。

今度は違う。一条様が迷っている。それが、紗奈にははっきりと伝わってきた。

打算している。剥き出しの、利益計算だ。

「……お前、」一条様の声に、かすかな揺らぎが混じった。「本気か。」

「この電話が終わり次第、資料を取りに来させてください。」紗奈の声は、恐ろしいほど平坦だった。「断ってもいい。ただし、そのデータの秘密は永遠に分からなくなる。」

「よく考えてください。この機会を逃したら、もう二度とありません。」

言い切って、返事も待たずに通話を切った。

電話が切...

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