第62章 代価

鉄の扉が、じりじりと近づいてくる。

紗奈は奥歯を噛みしめ、残った力で後ろへ踏ん張った。手首を掴まれた指先はすでに痺れ、ヒールの踵が床を引っ掻く短い音は、廊下の奥から滲み込んでくる低音の音楽にかき消されていく。

足を止める者は、誰もいない。

通りかかった客たちは顔を伏せ、足早に遠ざかる。視線はここを避け、水たまりを避けるように迂回していく。

扉の隙間から漏れる薄汚れた灯りが、じりじりと鮮明になっていった。

先頭の男が扉に手をかけようとしたその瞬間——

廊下の反対側から、足音が聞こえた。普通の足音ではない。目標が定まっていて、回り道をするつもりのない歩き方。タイルの床を踏む音は、規則的...

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