第七章 空白の七年

紗奈は振り返った。

「今日はお時間をいただき、ありがとうございました、黒崎さん」

迷わず、静かに告げた。

黒崎の足が一瞬乱れた。「奥様、一条様のご意向は――」

「わかっています」

紗奈はすでにエレベーターへ向かい、ボタンを押していた。

「ただ、今日は付き合う気になれません」

扉が開き、中へ入った。

黒崎は廊下に立ったまま追いかけてこず、ただ閉まっていくエレベーターの扉を見つめていた。

ロビーの自動ドアが開くと、外の陽光が一気に押し寄せてきた。

正午。眩しく、熱く、消毒液と排気ガスの混じった匂いが漂っていた。

紗奈は路肩に立ち、タクシーを待った。

どこへ行くか、考えていた...

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