第八十一章 白衣と黒糖

廊下の蛍光灯が一条様の影を長く伸ばした。

取っ手に手をかけたまま、動かなかった。電話の中で誘拐犯に言ったあの言葉が浮かび上がった。

「彼女と一条財閥には何の関係もない。」

あの言葉を聞いた時、彼女はどんな顔をしていたのか。

さらに冷たい沈黙か。それとも沈黙さえ返さない、完全な無関心か。

取っ手の金属は冷たかった。三十秒ほど握っていた。

それから離した。

身を翻し、廊下の反対側へ大きく歩いていった。


約四十分後、病室の扉が再び押し開けられた。

黒瀬さんが立ち上がりかけて、その音で動きが一瞬止まった。

一条様が入ってきた。黒いスーツ、ネクタイが半分緩んでい...

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