第九十八章 調査の代償

廊下の沈黙がまる二秒続いた。

紗奈は怒らなかった。

一条様を見た。目の中に、人を不安にさせるような平静があった。

口を開いた。「一条先生。」

「離婚協議書には明確に記されています。あなたの今の立場は、私の前夫です。」

わずかに顎を上げ、彼の背後の廊下を示した。

「お引き取りください。」

一条様のこめかみが脈打った。わかっていた——あの呼び方が何を意味するか。紗奈が最も丁寧な方法で、彼を完全に他人の範疇へ押し込んでいた。その丁寧さが、どんな怒罵よりも受け入れがたかった。立ち去らず、むしろより真っ直ぐに立ち、全身で扉口を塞いだ。壁のようだった。


沈黙が少しの間続いた。

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