第九十九章 突然の抱擁

一条様は最後の言葉を口にして、黙った。古びた本棚に背を預け、その目は静かに紗奈を捉えていた。

紗奈は何も言わなかった。

海外口座。多層の偽装。事前に切られた監視カメラ。留置室で彼女のフルネームを呼んだ同室の女。使われた形跡のない廃番号。

どの細部も、同じ特徴を指し示していた。

——これは衝動的な報復ではない。

西園寺さんか。

動機はある。自分を排除すれば、一条様の傍で唯一その地位を揺るがせる人間を消せる。それは否定しようがない。

だが紗奈はすぐに、一つひとつ否定していった。

西園寺さんの手口は、感情操作と話術に依存している。人間関係の中で的確に圧力をかけることに長けている。海外...

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