第120章 記憶を消す

阿部岳斗は秘書を乱暴に突き飛ばすと、正気を失った獣みたいにエレベーターへ突進した。

「全市の出入口を封鎖しろ! 空港も港も高速も全部だ! 一匹のハエも外へ逃がすな!」

よろめきながら廊下を駆け、喉を裂くように怒鳴るたび、傷ついた声帯が引きつり、顎先から血がぽたぽたと落ちた。

「阿部家のボディーガードを総動員しろ! 防犯カメラを洗え! 10分以内に、あの車がどこにいるか突き止めろ!」

美玲は死んだ。

もう、死んでいる。

なのに――どうして遺体まで、奪い去る。

阿部岳斗の脳裏に、ひとつの名が閃いた。

岩崎春菜。

あの毒のような女以外に、死体にまで憎悪を燃やす者がいるはずがない。...

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