第124章 忘れたのか?

岩崎春菜は振り返り、遠くの担架を見つめた。

阿部岳斗がボディーガードたちに担ぎ上げられていく。

「でも……あの人の周り、ボディーガードだらけで……」春菜の声が震えた。

「医者は間抜けだ。隠し扉の中にある看護師服を着ろ。マスクもだ。連中が救急車に運び込む瞬間に紛れ込め。あとは針を静脈に刺して、スイッチを押すだけ。3秒。たった3秒でいい」

「脳に残ってる江口美玲の記憶も、闘技場の記憶も――この薬で焼き切れる」

「完全に忘れる。目覚めたら、おまえのことしか覚えていない。もう一度、上から見下ろす阿部夫人に戻れる」

――もう一度、阿部夫人に。

その言葉が、岩崎春菜の迷いを断ち切った。

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