第72章 今のお前は犬だ

美玲は全身を震わせていた。首に巻かれた鉄の棘が、呼吸のたびに肉を擦り、じわじわと血を滲ませる。

手探りで腕を伸ばし、傍らのトイレブラシを取ろうとした、その瞬間――

「ぱんっ!」

岩崎春菜が一蹴りでブラシを弾き飛ばした。鋭いヒールの先が、そのまま美玲の手の甲を踏み抜く。

「――っ!」

悲鳴にならない声が漏れた。皮膚が裂け、温い血が指先へ伝っていく。

「誰がブラシ使っていいって言った?」

春菜はしゃがみ込み、美玲の耳元へ顔を寄せる。

「今のあんたは犬なんだよ。犬はどうやって掃除するの? 手でやれ。便器の中の汚れ、ちまちま全部ほじくり出して、きれいにしな」

美玲の虚ろな眼窩から、...

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