第79章 他の人にして

「岳斗、痛くて冷や汗だって! 何かあったら責任取れるの? ここは私が見てる。行きなさい!」

慌ただしい足音が遠ざかっていく。

小池さんは追い払われた。

美玲の全身の産毛が、ぞわりと逆立った。

「カチャ」

鍵が、ありえないほどゆっくり回される。扉の隙間から一筋の光が差し込み――すぐに、また闇に呑まれた。

誰かが入ってきた。

靴は履いていない。絨毯を踏む音は、ほとんどしない。

それでも美玲にはわかった。高級で、鼻を刺す香水の匂い。

岩崎春菜だ。

美玲はベッドボードにもたれたまま、微動だにしない。眠っているふりをする。だが布団の下の手は、シーツを握り潰すほど強く握り締めていた。...

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