第80章 お前に何の資格がある

阿部陽は何も言わず、美玲の掌に指先でゆっくりと線を引いた。

文字を書いている。

「葉っぱ」

美玲はふっと笑った。笑みはどこか青白いのに、やさしかった。

芝生にうつ伏せになり、耳を地面へ寄せる。

「聞いて」美玲が囁く。「小さい虫が歩いてる……アリかな?」

阿部陽も身を寄せ、真似をして芝生に腹ばいになった。

黒いアリの列が、せっせとビスケットの屑を運んでいる。阿部陽の大きな瞳には、久しぶりの好奇心がきらりと宿っていた。

小さな手を伸ばし、美玲の指をそっと引く。アリが通る脇へ、やさしく置いた。

指先に伝わるかすかな気配に、美玲の口元がほどける。肩の力が抜けたような、安堵の弧。

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