第90章 心のない化け物

電話が切れた。

中村哲也はその場に硬直したまま、泥水の中にうずくまる美玲を見下ろしていた。

美玲にも、受話器の向こうから聞こえた阿部岳斗の声が届いていた。

泣き叫びもしない。暴れもしない。

ただ、砕けた小石とぬかるみにまみれた地面に、静かに伏せている。まるで、もう息のない死体みたいに。

目隠しの黒い布は血と涙でぐっしょり濡れ、暗い赤が顎を伝って、ぽた、ぽた、と土に落ちた。

「目黒律……」

ひび割れた唇がわずかに開き、その名だけを吐き出す。

この世界で、彼女の生き死にを気にかけてくれる、たった一人。

阿部岳斗は、どうすれば彼女が完全に砕けるかを知っている。

最後の支えすら、...

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