第91章 私の視界から消えろ

傘も差さずに立つ男の頬を、雨が容赦なく伝い落ちていた。

その眼は――まるで、二つの死体でも眺めるみたいに冷たい。

「俺はお前に、彼女をどこへ連れて行けと言った?」

阿部岳斗の声が雨幕を突き破る。温度というものが、そこには一滴もなかった。

中村哲也が即座に一歩前へ出て、美玲の前に立ちはだかる。

「岳斗、聞いてくれ。これはおかしいんだ。さっき崖っぷちで――」

「……っ!」

拳が唸りを上げた。

阿部岳斗が振り抜いた一撃が、中村哲也の顔面を容赦なく打ち抜く。

中村哲也は数歩よろめいて後退し、口の端が裂けたように血が滲んだ。

「霊安室へ連れて行って心臓を抉れと命じた。なのにお前は、...

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