第38章
「どうしたの?」
胸の奥がひやりと跳ねて、相沢愛音は首を横に振った。
「……何でもない」
いま自分の身に起きていることを口にするのが、どうにも気恥ずかしい。
「四宮壱を呼ぶ。先に戻ろう」
男の口調には有無を言わせぬ硬さがあり、相沢愛音もそれ以上は言い張らず、黙ってうなずいた。
相沢衣奈から抜き取った香膏がまだ手にある。四宮礼司が目を離した隙に、それをさっとハンドバッグへ滑り込ませた。
加島子浦にひと言だけ告げ、四宮礼司は相沢愛音を連れて先に引き上げる。
ホテルの正面には、すでに四宮壱が待っていた。男を外へ押し出した瞬間、相沢愛音は膝がふっと抜け、危うくその場に崩れ落ちそうにな...
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