第3章
翌日、アウレリアは、水晶宮殿の歴史でもっとも馬鹿げているのに、なぜか皆が待ち望んでいた絆の儀を執り行った。
聖なる光の大聖堂は、まるで二つに割れたかのようだった。東のドームは金鷲一族の太陽の焔に灼け、祭壇は容赦ない光を屈折させてきらめく。対して西の階段は、奈落めいた影に呑まれていた。
リサンドラとヴァレリウスの結びつきは、過剰という言葉すら生ぬるいほどの見世物だった。金色の賛歌が鳴り響き、光の花弁が空から降りしきる。
一方で、西の階段は静まり返っていた。高位の貴族は誰ひとり出席しない。
下位の鳥人たちですら、影鴉の「呪い」を恐れて近寄らなかった。
「リサンドラ姫とヴァレリウス様の結びは、我らの天空を照らす主権者を生むであろう!」と、金鷲族の大祭司が怒号のように告げた。
東側から歓声が上がる。
通路を挟んだ向こうで、影鴉族の古老祭司が、枯れた指を私の額に押し当てた。「夜の星々と奈落の風が、お前たちの絆を守らんことを。今より、お前たちは一つの運命を共にする」
私はコルヴスの掌に自分の手を重ねた。彼は一瞬、私の体温に灼かれたみたいにびくりとし、それから強く握り返してくる。
「セラフィナ、誓う」彼は小さく囁いた。「俺が息をしている限り、誰にもお前を傷つけさせない」
「私が選んだのよ、コルヴス。自分の意思で」私はその視線を受け止める。
深紅の瞳に嵐が渦を巻き、心臓が跳ねて息が詰まった。
夕暮れには、大聖堂の別棟で祝宴が開かれた。
リサンドラが私の席へ歩み寄ってくる。
「見て、この『太陽の烙印』。ヴァレリウスが私に授けたのよ」彼女は得意げに笑い、首筋に浮かぶ発光する火傷跡を撫でた。「これは高位血統の統合の証。大祭司が言ったわ、私は太陽魔力で溢れているって。すぐに完璧な後継ぎを授かるでしょうね」
彼女はコルヴスを見下して鼻で嗤った。「それに比べて……烙印ひとつもらえず、羽なき雑種の隣で腐るしかない者もいるのね」
私は目を伏せ、口元に浮かびかけた笑みを押し殺した。栄光しか見えていないのね、リサンドラ。
金鷲一族の攻撃的な血は、初日から母体の生命力を吸い上げていく――前世で、私はそれを身をもって知った。
「この惨めな隅っこ、見てよ!」彼女は私たちのテーブルを指さし、嘲り立てる。「貢ぎ物もない、晶核もない。父上、気持ち悪いわ。王家の血が屍肉喰らいと結びつくなんて」
空気が、すとんと冷えた。
コルヴスから奈落の恐怖が脈打つように溢れ出し、影鴉の長老たちが一斉に立ち上がる。その視線はリサンドラに突き刺さっていた。
「リサンドラ。跪きなさい。私の伴侶と、私の民に謝れ」私は命じた。
父上が椅子を蹴り飛ばす勢いで立ち上がった。まさか、追放者の気配だけで部屋の結界が物理的に軋むとは思っていなかったのだろう。「リサンドラ! 姉に謝れ!」
コルヴスの圧と父上の怒声に縫い留められ、リサンドラの膝が床に叩きつけられた。
「わ……私……ごめんなさい……」震えながら、彼女はしどろもどろに言う。
それでも歯噛みするように吐き捨てる。「覚えてなさい、セラフィナ。私の卵が孵ったら、あの不具の雑種をズタズタにしてやる!」
その夜更け、奈落の居城で、コルヴスは重い外套の留め具を外した。
外殻を脱ぎ捨てた彼の真の姿が露わになる。肩幅は広く、胴には傷が刻まれていた。だが、部屋を支配したのは背の翼だった。羽毛はない。代わりに、闇金色の黒曜石で鍛え上げられたかのような、巨大な骨の構造体がそこにあった。
堕ちた鴉ではない。これは――奈落の骨の不死鳥だ。
「コルヴス……あなた、何者なの?」私は掠れた声で呟いた。
彼は私の衝撃を勘違いした。骨の翼がぴくりと震え、反射的に外套へ手を伸ばす。「セラフィナ、怖がらないでくれ。醜いのは分かって――」
「怖くないわ」私は一歩近づく。指先を彼の胸に当て、そこに走る魔法回路をなぞった。
彼が息を呑んだ。筋肉が石のように強張る。私が首筋の慌ただしい鼓動に口づけると、獣じみた呻きが喉奥から引き裂くように漏れた。骨の翼がばっと開き、天井を覆い隠す。
「セラフィナ……何をしているか、分かっているのか?」掠れた声だった。「俺の魔力は不安定だ。お前を傷つけてしまうのが怖い」
「なら、解き放って」私は彼の顎に囁きを擦りつけた。「私も一緒に引きずり落として」
彼の堪えが、ぷつりと切れた。
コルヴスは私に口づけ、指を髪に深く差し込む。翼が激しく閉じ、私たちを包む檻となって、石の寝台へと倒れ込んだ。
彼の荒れ狂う奈落の力が、私の血に眠る神鳥鳳凰の残り火と衝突した瞬間、魔力が奔流のように増幅した。
「俺の……」彼は喉を詰まらせ、翼の内側へ私を完全に抱き込む。「永遠に」
「あなたの……」私は息を震わせた。「コルヴス。私の王よ」
二か月後、水晶宮殿を震わせる報せが駆け巡った。
リサンドラが懐妊したという。
使者が訪れた瞬間、私は茶を喉に詰まらせそうになった。
道理に合わない。前世で私は知ったのだ。ヴァレリウスの生殖機能は、自身の太陽の火で焼き切られていて、受胎させる可能性はほぼゼロだった。
ヴァレリウスが実質的に不能なら、リサンドラが宿しているものは何なのか。
数日後、金鷲一族は祝宴を開いた。バルコニーで、顔を紅潮させたヴァレリウスが杯を掲げる。「太陽を讃えよ! 我が妻は天空の都の主権者を産むのだ!」
宴席で、私はリサンドラの隣に座らされた。二か月にしては腹が大きすぎる。強張った笑みの奥で、肌は灰色にくすんでいた。
「お姉さま、奈落があなたの体質を壊したみたいねえ」リサンドラは甘ったるく囁き、腹を撫でる。「気にしないで。たとえ盲目の鴉どもをひと腹産んだって、結局は私の子に頭を下げることになるんだから」
「そうとも限らないわ」私は涼しい声で返した。「跡継ぎを確実にするために、闇市の強壮薬に手を出す人もいるもの。それに最近、哨戒の者が金鷲一族の屋敷の近くで、野生化した鳥人が不審にうろついているって報告していたわ」
リサンドラの笑みが砕けた。「何の話よ!?」
私は水の杯を彼女に向けて掲げる。「太陽があなたを見守りますように」
五日後、金鷲の領地を裂くような、この世のものではない絶叫が上がった。
雷雨の最中、リサンドラは早産に陥った。彼女は丸一日と一晩、血を流し続けた。三日経っても便りはない。父上は金鷲の宮殿へ向かったが、門で武器を突きつけられて足止めされた。
五日目、父上は助けを乞う必死の伝言を寄越した。
「行くぞ」コルヴスが低く呟く。彼は私の背後に立ち、翼はいまや神々しい金に煌めいていた。手を握り締める。「お前の妹がどんな奇跡を産み落としたか、見届けよう」
私たちは金鷲の宮殿へ踏み込んだ。腐った血の悪臭が殴りつけてくる。廊下は空っぽだった。リサンドラのすすり泣きに導かれるように進み、最奥の間の扉を開けた。
リサンドラは血溜まりの中で崩れ落ちていた。胸に押し当てるように抱えられているのは、きつく巻かれた包み――その中で蠢く、異形じみた肉の塊だった。
くちばしも羽毛もない。変異した骨が血のように赤い皮膚を突き破っている。顔は平たく、目がない。裂けた口には牙が並び、鱗めいた自らの肢を必死に噛み砕いていた。
王室医師が近くに跪き、震えながら言う。「リサンドラ様……これは下位血統を禁忌の触媒で融合させた祟りです。理性がありません。三日で腐り落ちるでしょう」
「黙りなさい! これは私の子よ!」リサンドラが金切り声を上げた。異形をさらに強く抱き締め、手首の肉を引き千切られても構わずに。「これが未来の主権者なのよ!」
