転生して滅世の鳳凰と結ばれる

転生して滅世の鳳凰と結ばれる

大宮西幸 · 完結 · 20.6k 文字

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紹介

「お姉様、ヴァレリウス様と私、もう羽根の契りを交わしてしまったんです……彼と結ばれなければ、私は契約の反動を受けてしまいます。翼が枯れ果てて、もう二度と誰とも番になれなくなるんです!」

リサンドラは襟元をぐいと引き下げ、鎖骨近くに埋め込まれた黄金に輝く羽根を誇示した——金鷲族の契約の証。

目を開けると、悪夢の中の血塗られた祭壇は消え、アウレリアの眩い水晶宮殿が目の前に広がっていた。

リサンドラは父と私の前に膝をつき、涙を流していた。

だが、伏せられたその瞳に、私は見逃さなかった——前世と同じ、貪欲で計算高い光を。彼女が私の腹を裂き、我が子を奪い去ったあの時と、まったく同じ眼差しを。

その瞬間、悟った。

彼女も、転生者なのだと。

チャプター 1

「お姉さま、ヴァレリウスと私は、もう羽根交わしの契りを結んでしまったの……。もし彼と結婚できなかったら、反動で私が壊れてしまう。翼は枯れて、もう二度と誰とも契りを結べなるのよ!」

 リサンドラは襟元を引き下げ、鎖骨の近くに埋め込まれた、金色に輝く羽根をこれみよがしに晒した――金鷲一族の印。

 もう一度目を開けたとき、悪夢の血塗られた祭壇の代わりに、目が眩むほど豪奢なアウレリアの水晶宮殿が広がっていた。

 リサンドラは父上と私の前にひざまずき、涙で頬を濡らしている。

 だが伏せた瞳の奥には、前世で見たのと同じ、貪欲で計算高い光が宿っていた――私の腹を裂き、子を奪ったときの、まさにあの目。

 その瞬間、確信した。彼女もまた、転生している。

 私は掌に爪を食い込ませた。痛みで正気を繋ぎとめ、今すぐ彼女を引き裂きたい衝動を押し殺す。

「リサンドラ……どうしてこんなことを。ヴァレリウスはお前の姉の婚約者だ。金鷲一族の後継者なのだぞ!」

 父上の声は無力に震えていた。けれど、私は父上をよく知っている――その決意は、もう揺らぎ始めている。

 父上は昔から、「無垢」な妹を贔屓してきた。侍女に産ませた庶子である彼女を、亡き母への罪悪感からか、過度に甘やかしたのだ。

 父上の目には、純粋な白鳥の血を引く正統な長女である私など、彼女の涙一つにすら敵わない。

 前世と同じ。裏切られてなお、父上は最後には彼女を「愛のために勇敢に選んだ」と讃えるのだろう。

 前世の私は、ヴァレリウスとの契りの儀を終えた。

 二か月後、身ごもった。

 私は彼のために聖なる卵を産み、その卵から孵った雛は、混じりけのない金の翼を持っていた。白鳥の血統と、ヴァレリウスの太陽の魔力を受け継ぎ、天空の都の絶対の支配者となって、金鷲一族を空前の繁栄へと導いた。

 一方、名門との結びつきを求めたリサンドラは、銀隼一族の後継者を選んだ。

 だが彼女は知らなかった。その結婚が、哀れな笑い話に過ぎないことを。名門の後継者の正体は、卑劣な操り人形で、密かに「腐羽の呪い」に侵されていた。契りを介して伝播するその呪いは、翼を腐らせ、狂気を呼び、そして子を成す力を奪う。

 呪いに蝕まれたリサンドラは子を成せぬ身となり、狂い、翼を失い、銀隼の者たちに追放された。

 彼女は自らの不幸を私のせいにした。私の伴侶と、強大な子への嫉妬に呑まれて。

 金鷲の戴冠の前夜、彼女は「許しを乞う」という名目で私を実家へ誘い込み、禁じられた血の陣を起動させた。

 前世の記憶が、脳裏に閃光のように走る。彼女は毒の刃で私の翼を斬り落とした。笑いながら腹を裂き、二つ目の卵と血統の力を抉り出し、それを腐りゆく自分の身体へ移し替えようとしたのだ。

「あなたが死ななきゃ、私に順番は回ってこない! どうしてあんたが、この空の唯一の主でいられるのよ!?」

 リサンドラの嗤い声が、耳の奥に焼きつく。

「セラフィナ?」

 憎悪に囚われた私を、父上の声が引き戻した。

「この件、お前はどう考える?」

 見下ろしたリサンドラへの憎しみは、天空の都すら焼き尽くせるほどで、私を飲み込もうとする。

 嵐を呼び、首を折り、彼女の本性を世界に晒したい。だが理性が、衝動に鎖をかけた。

 あの傲慢な金鷲が欲しいのね、妹。なら、くれてやる。伴侶を密かに吸い尽くす血筋――その「立派な」血統に、あなたが灰にされていくのを見届けてあげる。

「もう契りを結んだのなら、済んだことです。裏切り者の羽など、こちらから願い下げです」

 私の声は氷のように冷たかった。

 リサンドラの顔に驚愕が走り、次の瞬間には、抑えきれない歓喜に塗り替わる。

「本当に? お姉さま、じゃあ私に――」

「ええ」

 私は言葉を断ち切った。

 父上は安堵の息を吐いた。

「リサンドラ、お前は姉に借りを作ったぞ。セラフィナの寛大さが、お前の望みを叶えたのだ」

「必ずお礼をします!」

 リサンドラは床から跳ね起きると、私が気が変わる前にとでも言うように飛び出していった。金鷲一族へ勝利を告げるために。

 父上は末娘の去っていく背を、満足げな光を宿した目で見送った。

 だが扉が閉まった途端、その慈愛は消え、冷たい計算だけが顔に浮かぶ。

「セラフィナ」

 父上の表情が厳しくなる。

「金鷲との縁は失ったが、お前の純血なら、まだ手はある。雪梟一族の若様がちょうど成人した。あの一族は水晶核の交易を独占し、莫大な富を持つ……」

「嫌です」

「私の選択は、もう決まっています」

 私は父上の呆然とした目をまっすぐ見据えた。

「影鴉一族のコルヴスと契ります」

 父上の顔から血の気が引いた。

「正気か!? 影鴉族だと? 奈落に留まる呪われた鳥どもだぞ! それにコルヴス……あいつの翼は昔に折られている。あれは不具者だ!」

 数世紀前、影鴉一族は天空の都の四大一族によって追放された。飛翔の権利を奪われ、死の象徴として、陽の射さぬ奈落の辺境を彷徨う賤民へと落ちたのだ。

 アウレリアの歴史において、純血の娘が鴉と契るなど前代未聞だった。世間にとって、あの穢れた血は、空に届く子を生むに値しないものだった。

 けれど前世、血の陣に囚われ、死を目前にした私は見た。天を裂いて落ちてくる、黒い影を。

 コルヴスだった。

 折れた翼の灰色の鴉。世界に唾を吐きかけられたその男が、血に染まった翼を引きずりながら、聖騎士団ですら傷一つ付けられなかった禁断の結界を、体当たりで叩き割ったのだ。

 深紅の瞳には、上位の鳥人たちにありがちな傲慢な優越など、欠片もなかった。

 彼はすべてを投げ打って、血溜まりの中から私を引きずり出そうとした。けれど結局、間に合わなかった――あと一歩、遅かった。

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