第168章

古川朱那は車のドアを開けて乗り込もうとしたところで、その言葉を聞き、思わず可笑しくなった。

「今度は何?」

くすり、と笑ってみせる。

「大奥様のご容体は? 婚約披露宴はいつに延びたの? その日なら、私たち二人でお祝いに伺うけど」

微笑みはやわらかく、春風みたいに穏やかだった。

けれど古川礼人の目には――鬼の形相にしか映らない。

古川礼人は顔を真っ赤にし、拳をぎりぎりと握りしめた。今にも殴りかかってきそうな勢い。

古川朱那はもう一度、さらりと笑う。

「どうしたの。前に入った留置場、まだ足りない?」

その瞬間、礼人の赤みはすっと引き、顔色が真っ青になる。瞳の奥に、恐怖がさっと走...

ログインして続きを読む