第177章

そのとき、病室のドアが控えめにノックされた。

坂東真久がそっと入ってくる。困ったような顔で佐野一玄のそばへ寄り、声を落とした。

「先生、鶴様がお見えです。古川嬢にお会いしたい、と……」

佐野一玄の瞳に一瞬だけ冷たい光が走り、すぐに平静へ戻る。

「通せ」

わずかに迷った末の返答だった。

佐野鶴が古川朱那の命の恩人である――それだけは、どう足掻いても覆らない事実だ。いずれ朱那も知る。隠し通せるはずもないし、隠す意味もない。

車椅子の佐野鶴が、看護師に押されて入ってきた。

額にはまだガーゼが貼られているが、顔色は悪くない。

澄んだ眼差しが、ベッドの背に身を預ける古川朱那を捉えた瞬...

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