第179章

黒いセダンが、地下駐車場へ静かに滑り込んだ。

エレベーターで上がり、古川朱那は目の前の見慣れた家に視線を走らせる。胸の奥に引っかかっていた小さな不安が、すっと薄れていった。

「朱那、ここは君の家だ」

佐野一玄は玄関でスーツケースを置きながら言った。

「安全だし、病院もリハビリセンターも近い。若菜も、ちょくちょく顔を出してくれる。俺は隣の棟に住む」

そう言って、床まで届く窓の向こう――少し離れた場所に建つ、同じテイストの小さなヴィラを指さす。

古川朱那は、その言い方に引っかかった。恋人同士でも、同居はしていない。付き合い始めて、まだそれほど時間が経っていないのだろう。

そのとき、...

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