第183章

「何考えてるの?」

古川朱那が心配そうに手を伸ばし、彼の目の前でひらりと振った。

ほんの一瞬。さっきの彼は、怖かった。まるで別人みたいに、全身から刺々しい殺気が滲んでいた。

目を覚ましてから今まで、彼のそんな顔は一度も見たことがない。

「……別に」

佐野一玄は我に返り、唇をきゅっと結ぶ。

「自分の感覚で判断していい。俺は、おまえを信じる」

古川朱那ははっとして、胸の奥に温かいものが流れ込んだ気がした。

――信じる。

その一言は、彼女にとってどんな慰めの言葉より強い。

そのとき、スマホが鳴った。

知らない番号。考えるより先に切る。

だが相手は立て続けに三回。何か用がある...

ログインして続きを読む