第43章

そのとき、古川礼人が物音を聞きつけて駆けつけてきた。

「天華! どうした!」

「礼人兄さん……」

周防天華は彼の胸に飛び込み、しゃくりあげながら言った。

「馬が急に暴れ出して……怖かった……死ぬかと思った……」

けれどその視線は、無意識に佐野鶴へと滑っていく。

来てまだ一日も経っていないのに、彼の素性はすでに現場の噂で耳に入っていた。

本人が優秀なうえ、権勢を誇る兄がいる――佐野家の縁にさえ繋がれれば、将来など約束されたも同然。

しかも、さっき落馬しかけた自分を身を挺して止めたのは佐野鶴だ。彼だって、きっと自分を意識したはず……。

……なのに。

佐野鶴は天華に目もくれず、...

ログインして続きを読む