第54章

だが彼らは事故車のまわりで、金勘定でもするようにそわそわと様子をうかがうばかりで、誰ひとり近寄ろうとしなかった。見るからに高級車だ。下手に触れて因縁をつけられるのは御免、というわけだ。

古川朱那が近づいていくと、親切そうなおばさんが「やめときなさいよ、関わらないほうがいいって」と声をかけてきた。余計なことに首を突っ込まないのが一番だ、と。

それでも朱那は足を止めなかった。ぶつけられた男の横顔が、どこか見覚えがある気がしたのだ。どこで見たんだっけ――。

朱那は駆け寄った。背後では野次馬たちのひそひそ声が「え、行くの?」「大丈夫か?」と広がり、クラクションも断続的に鳴っている。けれど彼女の...

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