第55章

「……ああ」

古川朱那は胸の内で、くすりと嘲った。

表には出さない。少しの沈黙のあと、彼女は身を翻してソファに腰を下ろし、視線をテーブルの上――青いベルベットの箱へ滑らせた。

どこまでくだらない芝居を見せてくれるのか。むしろ興味が湧く。

古川邦夫は気まずそうに唇をひきつらせ、ぎこちない手つきで箱を朱那の前へ押しやった。

「開けてみろ」

さっきまで怒鳴っていた男が、いまはわざと優しげな顔を作っている。その不自然さに、かえって寒気がした。

朱那は心の中で白目をむきつつ、顔色ひとつ変えず素直に蓋を開けた。

中にはダイヤのジュエリーセット。

月をモチーフにしたデザインで、ぱっと見は...

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