第1章

 四大種族による凄惨な大戦が停戦を迎えた後、超常評議会は一つの鉄則を定めた。――『王裔条約』。

 百年に一度、「結盟期」が開かれる。条件を満たした新たな継承者たちが、次の百年における世界の覇権を決するのだ。

 前世の私は、狼族の王子ダリウスに嫁いだ。「黒羽の孤児」という烙印から逃れたくて。

 狼族の掟は単純明快だった。先に「母系鷹眼」の血を引く子を産んだ者が、すべてを手にする。

 私は彼の子を宿した。それはダリウスを王座へ押し上げ、途方もない権力を与えた。

 族長の実の娘である妹セシリアは、血族の気高い神秘に憧れ、みずから彼らの継承者との婚姻を選んだ。

 けれど血族の結婚は、氷のように冷たい。

 結局、彼女は体質の拒絶反応で子を産めない体となり、宴の席では笑いものにされた。嫉妬と怨嗟に塗れたセシリアは、そのすべてを私のせいにした。薬を盛り、私を風暴崖から突き落としたのだ。

 落下していく私へ、追放された無翼竜ケイドが、暗い鱗に覆われた手を伸ばしてくれた。助けようとしてくれたのに――岩壁の上で、セシリアは冷笑し、命綱の岩索を断ち切った。

 私は、地面に叩きつけられて死んだ。

 そして、再び目を開けた瞬間。あの手の残る温もりと、セシリアの怨毒の眼差しが、いまも魂の奥に刻まれているようだった。

 なのに私は、百年に一度の「結盟期」が始まる、その日に戻っていた。

 月光祭壇の観神台から、下の祭壇を見下ろす。

 そこでは、セシリアがすでに先回りし、ダリウスと絡み合っていた。

 ――彼女も、戻ってきたのだ。

 だがセシリアは知らない。ダリウスが伴侶にどれほど残酷かを。満月で理性を失った夜、彼は寝台の上で何匹もの雌狼を壊してきたことを。

 冷えた祭壇の石段。名誉を示す金羽のマントが、乱暴に脇へ投げ捨てられている。セシリアは裸のまま脚を大きく開き、ダリウスは彼女の腰を掴み、容赦なく突き上げていた。

 湿った媚声が漏れ、胸が乱暴な衝撃に揺さぶられる。粗い掌が白い尻を掴み、赤い痕を刻みながら、身体ごと叩きつけるように引き寄せた。

「もっと……壊して」セシリアは甘く喘ぎ、爪でダリウスの背に幾筋もの血の線を走らせる。

「お前、こういうのが好きなんだろ。全部、奥にくれてやるよ」ダリウスが低く唸り、彼女の腰を掴んで四つん這いにさせた。次の瞬間、背後から一息に貫く。

 その光景に、私は前世の死の記憶から叩き起こされるように我に返った。

 魔導鏡の伝音装置を乱暴に押し込み、祭壇へ向けて声を叩きつける。

「セシリア、何をしているの?!」

 私の声が祭壇の上に反響した。

 セシリアは荒い息のまま、なおも下半身をダリウスに貫かれている。首を反らし、まるで魔導鏡越しにこちらの位置を射抜くように見上げ、頬を紅く染めて言った。

「お姉さま。私、ダリウスと本気で愛し合ってるの。お願い……私たちを認めて」

「それに、もう誓約も結んだ。今さら私が彼に嫁がなかったら、議会は私を『不浄』の罪で絶対に許さない」

 私は冷えた目で、その哀れっぽい懇願を聞き流した。

 そのとき、観神台の影から養父――鷹族の族長オルトンが姿を現した。下の狂騒を見て眉を寄せ、私に言う。

「レイヴン。もう起きたことだ。家の恥にするな。お前は別の伴侶を選べ」

 オルトンの目には、セシリアがどれほど道を外れていようと、咎める気配など欠片もない。彼女は純血の金羽を持つ実の娘で、私はいつでも切り捨てられる黒羽の孤児にすぎないからだ。

 私は祭壇のセシリアを見下ろした。

 涙に濡れた顔で可憐に見せかけているくせに、瞳の奥では野心と得意がぎらついている。隠しきれていない。

 彼女は信じているのだ。私より先にダリウスの寝台へ潜り込めば、前世で私が掴んだ運命を奪い取り、権力の頂点――王妃の座に座れると。

 風暴崖での裏切り。深淵へ落ちていく絶望。そして、岩索を断ち切ったあの冷笑。

 一瞬で脳裏に雪崩れ込み、胸の奥で怒りが暴れ回った。いまこの場で駆け下りて、あの喉を裂いてやりたい。二人まとめて血で償わせたい。

 それでも私は、袖の中で拳を握り潰す。爪が掌の柔らかい肉へ食い込み、鋭い痛みで無理やり理性をつなぎ止めた。

 殺意を瞳の底へ沈め、伝音装置に向けて、意味深く冷たい笑みを引き結ぶ。

「そこまでダリウスを愛しているなら、私は口を出さない。……ただ、後悔しないでね」

 セシリアは、私がこんなにもあっさり退くとは思っていなかったのだろう。目を瞬かせ、次いで興奮に顔を輝かせた。演技の涙を拭うことすら忘れて。

「あ……ありがとう、お姉さま!」

 見せつけるように、彼女はダリウスの荒々しい衝きに合わせ、わざと腰を強く押し返し、さらに深く受け入れる。挑発するような甲高い声が響き、彼女は男の太腿へしがみついた。

 まるで全世界に向けて宣言しているみたいだった。未来の王座を、私はもう掴んだのだと。

 オルトンは安堵したように息を吐き、縁組名簿を取り出して取り繕う。

「レイヴン、お前は度量がある。残る第一候補は、血族の継承者……それから、竜の墓所群にいる追放者の無翼竜だ」

「血族がいいだろう。高貴で神秘的で、地位もある」オルトンは眉を寄せて考える。「あの竜は翼すらない上に寿命が短い。まったくの欠陥品――怪物だ」

「父上様」

 私は迷いなく遮った。前世、墜ちる私へ必死に伸ばされた、暗い鱗の大きな手が脳裏に蘇る。

 私は顔を上げ、薄暗い神殿の奥を越えて、竜の墓所群がある荒涼たる方角を見据えた。

「無翼竜、ケイドを選ぶ」

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