第3章
ケイドは反射的に私の手を握り締め、背後から聞こえてくる発情した嬌声を、扉の向こうへと完全に押しやった。彼は視線を落とし、私を射抜く。声は冷たく硬いのに、妙に真剣だった。
「レイヴンお嬢様。俺を選んだのは、ほかに道がなかったからだろう。……だが誓う。君が俺のものになった以上、俺が生きている限り、指一本触れさせやしない。苦しませもしない」
その囁きに、私の足が止まる。
逃げるどころか、私は自分から距離を詰めた。広く硬い胸板へ、ぴたりと身を寄せる。熱した石と鉄錆が混じったような濃い雄の匂いが、一瞬で鼻腔を満たした。私は顔を上げ、真正面から見据えて、怯みなく誤解を断ち切る。
「ケイド、よく聞いて——誰かに押しつけられたんじゃない。あなたを選んだのは、私がそうしたかったからだ。だから、これからはレイヴンって呼んで」
巨躯がわずかに強張り、氷みたいに冷たかった縦の瞳に、信じがたい暗い光が走った。
「……了解した。レイヴン」
二日後、二族の結婚式は予定通り執り行われた。
儀式の場は竜墓の深層。宙に浮かぶ伝影の水晶には、狼族の王庭で催される絢爛な祝宴が同時中継されている。オルトンは同盟の全員に、自分の可愛い娘が華々しく嫁ぐ姿を見せつけたくてたまらないらしい。
映像の中では権門が競ってへつらい、笑い声が溢れていた。対してこちらにあるのは、冷えた黒曜石の床と壁だけ。背後に控える竜族守衛は松のように直立し、地上の虚飾など歯牙にもかけない。
儀式の締めとして、双方は転送陣で鷹巣大ホールへ戻り、『王裔条約』に署名することになっていた。廊下で、私たちは鉢合わせる。
顔を合わせるなり、セシリアは衣領を乱暴に引き下げ、首筋いっぱいの真っ赤な噛み痕を見せびらかした。
「見えた? 狼獣の体力って本当に恐ろしいの。ダリウスの……あれで、一晩中めちゃくちゃにされてさ。もうすぐ継承者を孕めると思う」
ダリウスは飢えた目で彼女に粘りつき、大きな手で尻の肉を執拗に揉み続けている。
「そりゃ、よかったな」私は薄く笑う。
妬みもしない私に、セシリアの顔が歪んだ。
「強がって。あんたはこれから墓場に籠もるだけでしょ」無表情の竜族守衛を嫌悪げに一瞥し、鼻で笑う。「墓守りどもと一緒に朽ちていくのがお似合いよ。その陰気な鱗の鎧が、あんたの棺桶ってわけ」
彼女が肩で私を突き飛ばして行こうとした瞬間、私は腕を掴み上げた。
「今の言葉、飲み込め。竜族守衛に謝れ」
「なに言ってんの、頭おかしいの!」セシリアは怒鳴り散らし、廊下は一気に騒然となる。
騒ぎに客人が集まり、オルトンも駆けつけた。庇おうとした、その刹那——竜族守衛が長槍を石板へ叩きつける。ゴン、と鈍い音。刻まれていた古い紋様が脈打ち、ぞっとする赤光が走った。同盟諸族への公然たる侮辱は、連合制裁の発動条件だ。
オルトンの顔色が変わり、目の奥に怯えがよぎる。盟約の署名前に火種を抱えたくないのだろう。彼は無理やりセシリアの肩を押さえつけ、竜族へ詫びるよう強いた。
セシリアは歯を食いしばって謝罪した。立ち去り際、私の耳に口を寄せ、毒みたいに囁く。
「レイヴン。勝つのは私よ。この子で、あんたを泥の底まで踏みつけてやる」
結婚式の夜。竜墓の石室は暗く、冷たかった。
ケイドが重い外套を乱暴に引き剥がし、侵略的なほど堂々たる体躯が露わになる。引き締まった腹筋には熱を帯びた黒い硬鱗が重なり、吐く息まで熱い。
その下——布越しでも分かるほど、太い隆起が鉄みたいに硬く張っていた。脈打つ熱が、こちらの皮膚にまで伝わってくる。
竜族の荒々しい気配に、私の身体はあっさりと蕩けた。
時間を無駄にする気はない。私は自分から歩み寄り、布の上からその熱い塊を掴み、ぐっと握り潰すようにもみ上げる。
「ケイド……熱すぎる。今すぐ、めちゃくちゃにしたくなる」
ケイドの喉仏がごくりと動き、縦瞳が危険な細線へと絞られた。
「飲み込め。入り切らなくても、全部だ」
余計な言葉はなかった。彼は私の太腿を乱暴にすくい上げ、軽々と宙へ抱え上げる。背中が冷たい石壁に叩きつけられ、息が詰まった。太い指が容赦なく脚を押し広げる。
硬い腰が迫り、熱い先端が濡れた場所をこじ開けた。次の瞬間、逃げ場のない一撃で、奥まで一気に貫かれる。
「——っ!」
大きすぎる。熱い塊が内部を押し広げ、最深部まで隙間なく塞がれていく。限界の膨満感が快感に変わり、頭の芯が痺れた。
「……くそ、なんでこんなに締まる。しかも、溶けるみたいに濡れてやがる」
低い唸りと同時に、腰が荒々しく動き出す。石室に、肉が打ち合う湿った音が反響した。彼の手が獣みたいに胸を揉み潰し、胸元の鱗が肌を擦って、震えが走る。
立ったまま突き上げられるだけで、私は堪えきれずに達してしまった。
それでもケイドは止まらない。痙攣が収まらないまま抜きもせず、繋がったまま私を石床へ投げ出す。体勢を変え、背後から獣じみた勢いで突き立ててきた。
どの体位でも、あの熱い衝撃は狙ったように敏感な場所を踏み潰してくる。逃げ場がない。
「……やばい、ケイド……っ。気持ちいい……もっと、奥……開いて、全部……!」
理性はもう残っていなかった。声を抑えることもできず、求める言葉が勝手に溢れる。
ケイドも完全に箍が外れたらしい。何度も頂点へ突き上げられるたび、鎖骨の血晶石が焼けるように熱を帯び、彼の体温と竜族の精気を狂ったように吸い上げていくのが分かった。
その夜、彼は私の中へ幾度も熱を注ぎ込み、粗暴で、けれど抗いようもなく快楽的な動きで、私が脚を投げ出したまま指一本動かせなくなるまで貪り尽くした。
四か月後、同盟に荒唐無稽な噂が流れた——セシリアが懐妊した、と。
異種族交配で四か月で腹が目立つ? 常識外れにも程がある。
それでも狼族は覇権を先に固定するため、出所の知れない胎児を理由に盛大な祝宴をぶち上げた。会場で、風船みたいに突き出た彼女の腹を実際に見なければ、私は笑い飛ばしていただろう。
主台でダリウスが杯を高く掲げる。
「月に誓う! 狼族の血は比類なき力だ! 四か月で奇跡を成した!」
五大氏族の権貴たちは、尻尾を振る犬みたいにこぞって取り入った。
セシリアは私を徹底的に踏みつけるつもりらしい。竜族の静かな席から、わざわざ私の腕を掴んで引きずり、隣に座らせた。彼女は不自然なほど大きく、明らかにむくんだ腹を突き出し、毒々しく笑う。
「セシリア。四か月なのに、まだお腹が石みたいにぺたんこじゃない。血筋のない野良の子ってだけじゃなくて、子宮まで壊れてるんじゃない?」
私はその異様な腹を見て、目の奥で冷たい嘲りが滑った。前の人生で狼の子を宿したことがある。あれが生まれつきどれほど大きいか、嫌というほど知っている。あのときは必死に食を削り、分娩で裂けて死にかけた。
セシリアは寵を得るために、腹の暴走を止めようともしないのだろう。だが分からないはずがない。こんな巨体の怪物を産むのは、内臓を引き裂かれる地獄だ。
私は杯に口をつけ、卓の誰にでも聞こえる声量で、静かに致命傷を与える。
「異種族で子を成すなら、最低でも十四か月はかかる。なのに、あなたは四か月でそこまで腫れ上がった……裏でどんな薄汚い禁じ手を使って腹を膨らませたのか、分かってるのはあなただけよ」
