第10章

神谷亮は一人車内に残り、腕のアンティークウォッチに目を落とした。七年前、美月がくれたセイコーの腕時計。文字盤の縁には、微かな傷が一本入っている。彼はその傷をそっと指でなぞりながら、贈り物を手渡してくれた時の美月の笑顔を思い出していた。

「この時計、中古店で見つけたんだけど、あなたに似合うと思って」

当時の彼女の瞳は明るく温かく、言葉にできないほどの愛と期待に満ちていた。

この時計は、当時の美月にとっては精一杯の贈り物だっただろう。だが、神谷亮がコレクションしているスイス製の高級腕時計と比べれば、あまりに質素に見えた。

自分がその時、何と言ったか。おぼろげに覚えている。

「こ...

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