第6章

星辰レコードの社屋ビルを見上げ、藤井悠真は小さな顔をこわばらせていた。

「お母さん、いつ帰るの?お父さんがお家で待ってるよ」

その無邪気な一言が、神谷悠太の心を深く抉った。沈んでいた気分が、さらに冷たい底へと落ちていく。

思わず目の前の少年の襟首を掴みそうになり──すんでのところで堪えた悠太は、代わりに凍るような一言を吐き捨てた。

「……ほんと、ムカつくな、お前」

「悠太!」

鋭い声とともに、美月がさっと二人の間に割って入る。片手で悠真の肩を庇うように抱き、もう片方の手で悠太の腕を優しく、しかし制するように撫でた。

今の悠太が、感情の針を振り切らせた極度に危うい状態に...

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