第100章

小林ゆきは、藤原空人の顔に走った一瞬の嫌悪を見落としていた。見えたのは、彼がふっと視線を伏せて「小林さん」と呼び、目尻をやわらかく下げて笑ったことだけ。

『藤原様、お久しぶりです』

――その呼び方は、本当は違う。

藤原家には「若様」が二人いる。きちんと区別するなら、藤原空人は「藤原若様」と呼ばれるべきで、「藤原様」は基本的に兄の専用だ。

この界隈で、最低限の躾がある者、あるいは空気が読める者なら、まず間違えない。

藤原空人は目を上げた。

崎原時男の計画は把握している。だからこそ、時男の友人として、小林ゆきへの態度を露骨に悪くするわけにはいかない。

ただ――その「友人」という言葉...

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