第102章

不意に蘇った記憶が、崎原時男の脳裏を一気に冴え渡らせた。

彼は踵を返して車に乗り込み、見慣れた「昔の人間」の始末は部下に任せる。

『準備しろ。小林様に連絡だ』

ドアが閉まってから、ようやく男の指示が車内に落ちた。

前席の運転手は一瞬だけ目を瞬かせたものの、すぐに頷いて応じる。

窓は密閉され、暗い車内の背景に、遠ざかっていくビルの灯りだけがやけに眩しく映えた。

崎原時男は深い眼差しのまま振り返り、その建物をじっと見据える。視線は逸れず、思考だけが沈んでいく。

――いつの間にか、あの「出来のいい兄貴」の手が、小林暁の周囲にまで伸びていたらしい。

早村信惠の出現で、霧に包まれていた...

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