第120章

小林暁の冷静さは、崎原孝樹にとって完全に想定外だった。

彼は、小林暁が「子を失った」と知れば、崎原時男を骨の髄まで憎み、自分――仇の敵であるこの男と手を組むはずだと踏んでいた。ところが彼女の口ぶりは、歓迎どころか、崎原時男に知らせに行きかねない勢いですらある。

……どういうことだ。

崎原孝樹には読めない。女の表情は見えない。聞こえてくる言葉の温度だけで、感情を推し量るしかなかった。

失明してから、聴覚だけがやけに冴えていく。小林暁の声はあまりにも平坦で、波がない。強いて言うなら、さっき最初に喋った女のほうが、彼の望んだ「反応」に近かった。

――自分が久しく小林暁の声を聞いていないせ...

ログインして続きを読む