第130章

小麦を迎えに行くこと――崎原時男はそれを、翌日の予定の最優先に据えた。

マンションの同じフロアで、崎原時男は天野夢華と鉢合わせる。

彼女は相変わらず品のある佇まいで、成田七海の部屋のドアをノックしていた。廊下に響く足音に気づいて振り返り、崎原時男だと分かると、その瞳に一瞬だけ意外そうな色が走る。

『あなたがここに?』

崎原時男は小さくうなずき、落ち着いた声で言った。

『小麦を迎えに来た』

その名を聞いて、天野夢華の脳裏に、ミルク色の小さな犬が浮かぶ。小麦がまだ子犬だった頃、小林暁がよく連れてきて、彼女のところで遊ばせていた。

『たぶん、いないわ。犬の声もしないし、ノックしても反...

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