第36章

ロールスロイスが、レストランの下で待機していた。

小林光は陰りきった顔で、大股にこちらへ向かってくる。

佐藤秘書が小走りで先に回り、ドアを開けると頭を垂れたまま、ひと言も発しなかった。

「小林ゆきを張れ」

ドアが閉まる寸前、車内から小林光の命令が飛ぶ。

佐藤秘書は迷わず、すぐに頷いた。

小林光は鼻で笑い、視線を持ち上げてレストラン二階のあたりを見やる。さっき目に入った光景を思い出し、瞳の奥の嫌悪がいっそう濃くなった。

姉と男を奪い合うような人間など――つくづく、みっともない。

佐藤秘書も続いて車に乗り込む。

小林光は新聞を引っ掴んで広げたが、意識のほとんどは紙面に向いていな...

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