第74章

滅多にそんな選択をしない崎原時男が、このときに限って頷いた。自分が、あらかじめ定めていた原則を踏み越えたことにも気づかないまま。

『夫として、この場に出るのも必要だ』

抑えた返答の裏には、面倒な段取りが山ほど控えている。けれど崎原時男は気にもしない。ただ笑って、小林暁との関係を思い浮かべ――その「合法」という薄い膜の存在に、ひそかな喜びを覚えていた。

小林光は笑って頷く。彼がここまで露骨に笑うのは珍しい。

『よし。俺は明日出る。暁は任せた』

自分の入院が小林光の予定を狂わせたのだと気づき、小林暁は一瞬、胸がちくりとした。

『私、別に大したこと――』

だが、その聞き分けのよさは歓...

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