第82章

小林暁はそのメッセージに返事をしなかった。指で左へスワイプし、表示された「削除」の二文字を見つめたまま、胸の奥で小さく迷う。

なぜ消したいのか、自分でもうまく説明できない。消してしまえば、このメッセージに傷つけられた分まで帳消しになる――そんな気がしたのだ。

けれど小林暁はまともな人間だ。そんなのはただの自己欺瞞だと、わからないはずがない。

深く息を吸い、スマホの画面を落として横に置く。思考を空っぽにしようとしても、心の中まで空洞になったみたいに、すうすうと冷えた。

【小林ゆき、ベッドに潜り込んだって!】

成田七海がその言葉を口にしたときの、興奮と驚愕。小林暁はいまでも覚えている。...

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