第89章

その頃、小林光に連れられてあちこちへ挨拶して回っている小林暁は、自分の知らないところで、すでに何度も何度も「彼女」を主役にした話題が交わされていることなど、まるで気づいていなかった。

『こちらが浅坂碧人。うちの中じゃいちばんの年長者だ。浅坂お爺さんって呼びなさい』

小林光はそう言って手を上げ、指をそろえた掌で、数人の輪の中心にいる老人を示した。暗い臙脂色の、浮き彫りの雲紋が入った唐装を着た男。笑みを含んだ声だった。

暁は示された先へ視線を移し、微笑みを崩さないまま軽く頭を下げる。

『浅坂お爺さん、はじめまして』

昨夜のうちに、重要人物については一通り頭へ入れてある。だから目の前の顔...

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