第90章

崎原時男は、小林暁のその言葉を真に受けたのだろう。腕に込める力がほんの少し強くなる。相手の流れに乗るみたいに、軽い調子で言った。

『じゃあ、落として描き直す?』

小林暁はきょとんとしてから、すぐに首を振る。

『もう終わったことだし。いまさら、何のために?』

言っているのは、今日のこの宴のことに違いない。けれど崎原時男には、胸の奥をぽっかり抉られたみたいに聞こえた。理由のわからない、名づけようのない感覚。ただ反射みたいに口が動く。

『終わったら、どうだっていうんだ』

小林暁は彼を一瞥しただけで、答えない。

肩を並べ、距離は近いのに、言葉がない。周りで初対面同士が愛想よく談笑してい...

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