34、
白川蘭視点
彼の顎がそっと私の頭頂をかすめた。あたたかな吐息が頭皮を撫で、ぞくりとした痺れが走る。
「ちゃんと自分を大事にしろ」
低くて穏やかな声。いつもの彼と、何ひとつ変わらない響きだった。
まるでこの抱擁が、ただのありふれた別れの挨拶でしかないみたいに。
それから彼は私を離し、身を翻して車に乗り込み、ドアを閉める。黒いセダンはそのまま、ゆっくりと走り去っていった。
ほんの数秒のことだった。
夜風が吹き抜け、彼の身体に残っていた最後のぬくもりまで攫っていく。
私はその場に立ち尽くしたまま、しばらく動けなかった。
鼓動がひとつひとつ耳の奥を打つ。嫌になるほど、はっきりと。
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