81、

白川蘭視点

彼は俯き、横顔を私の首筋に深く埋めた。熱を帯びた息が肌にかかり、堪えきれない脆さが滲む。

この瞬間、彼は主導権も、選ぶ権利も――全部、私の手に預けた。

心臓が氷で包まれたみたいに、ふいに固まる。指先ひとつ動かせなくなった。

この安堵に縋りたかった。時間がこのまま止まってくれたらいいのに。苦しい選択なんて、向き合わずに済むのに。

やがて彼が、ゆっくりと腕をほどく。

彼は台の上の眼鏡を取り上げてかけ直し、瞳の奥の感情をすべて隠した。

声は凪いだ水面みたいに平坦だった。

「行こう」

私は腕の中の薔薇を抱えたまま、痺れた足で彼の後ろについて外へ出た。

展示室の扉の前で...

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