82、

白川蘭視点

玄関をくぐった瞬間、後藤家のリビングが視界いっぱいに広がった。

暖かい白の照明が部屋の隅々まで行き渡り、空気にはほのかな木の香りが漂っている。テレビは音を抑えたまま番組を流し、後藤のおじさんと後藤快斗がソファに並んで、取り留めのない話をしていた。

私は部屋中を見渡す。けれど、後藤正樹の姿だけがない。

胸の内がざわつく。まだ帰っていないのか、それとも――わざと二階、いや三階に引っ込んでいるのか。ぽっかり穴が空いたみたいで、息を吸うたび胸の奥が詰まった。

母が笑顔のまま尋ねる。

「正樹くん、今日は帰ってきてないの?」

後藤花梨がおだやかに答えた。

「急に高熱が出てしま...

ログインして続きを読む