93、

白川蘭視点

そのとき、彼が私に気づいた。小さく、けれど確かに呼ぶ。

「蘭」

私はゆっくり彼の前まで歩いていき、笑って首をかしげた。

「どうしたの? 急にそんな、改まった格好して」

彼は答えない。ただ、まっすぐに私を見つめたまま、真剣な声で言った。

「先に、俺の話を聞いて」

「うん。言って」

後藤快斗は明らかにいつもより硬い。袖口を整える仕草までぎこちない。普段なら大きな大会の決勝だって飄々としている人が、今は息の置き場を探しているみたいだった。

彼は深く息を吸い、長い沈黙のあと、私を見据えて一語一語を絞り出す。

「蘭。俺、認める。今まで……いろんなことから逃げてた。お前の...

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